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HHhH(プラハ、1942年) ローラン・ビネ著


HHhH(プラハ、1942年)
ローラン・ビネ著
東京創元社 2600円+税

ナチスによるユダヤ人大量虐殺の中心人物、ラインハルト・ハイドリヒを2人の若い工作員が暗殺する作戦を描いた小説。
ラインハルト・ハイドリヒは、ハインリヒ・ヒムラーに次ぐ親衛隊の実力者で、「ユダヤ人問題の最終的解決」計画を立案した。
(「ユダヤ人問題の最終的解決」とは、ヨーロッパからユダヤ人を絶滅させるということの婉曲的表現)

HHhHとは変わったタイトルだが、
Himmlers Hirn heißt Heydrich(ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる)
の略で、日本語のタイトルとしては、単に「エイチエイチエイチエイチ」で良い。
これはゲーリングがヒムラーのことを嘲って表現した言葉らしい。

工作員の潜入、ハイドリヒの暗殺と工作員の逃走、ゲシュタポによる捜索、仲間の密告、そして工作員たちの最期までを、徹底的に事実にこだわって記述する。
全て史実に基づくものであり、スパイ・スリラーとして上質のエンターテインメント小説、またはノンフィクション・ノベルに仕立てることも出来ただろうし、あるいはこれだけ綿密に考証したのだから、フィクションとしてまとめることも出来ただろう。
作者はあえてどの方法も採用せず、小説を書きながら、小説を書く自分を書くことによって、「ナチズムとは何だったのか」という問いとともに、「小説を書くとはどういうことか」を徹底的に自らに問う小説である。

あまりに細部にこだわりすぎの感もある(例えば、ハイドリヒが乗っていたメルセデス・ベンツの色が黒だったか、緑だったか)との異論もあるが、小説の新しい可能性を示した作品とも言えようか。ただこの作者の今後がどういう方向に行くのか、若干疑問もある。

ナチズムに関する書物は数多くあるが、個人的にはまだまだ知らないことが多いのだと実感させられた。
例えばハイドリヒ暗殺の報復として行われたリディツェ村虐殺のことなどは、あまりよく知らなかった。

・・・・・・

ところで本書は2014年の本屋大賞、翻訳小説部門の1位に選ばれている。
この賞の翻訳小説部門は、2012年に特別企画として行われたのが最初で、その後は毎年引き継がれている。
その2012年には、フェルディナント・フォン・シーラッハの「犯罪」が選ばれた。
これは勝手な想像だが、「犯罪」に賞を出したいものの、翻訳小説に賞を与える規定がなかったので、急遽「翻訳小説部門」を設置したのではないかと思う。「犯罪」は本賞に値する作品だった。
本屋大賞は「書店員が売りたい本」を発掘するという趣旨だったが、現在では単なる人気投票になっていて、黙っていても売れる本が選ばれる傾向になっているのは残念だ。
「HHhH」に関しては、内容も内容だし、2600円という金額もあって、さほど売れるものとは思えない。むしろこういうものに賞を出すのが見識というものだろうと思う。
そう考えると、2015年の「翻訳小説部門」1位に選ばれた「その女アレックス」については、すでに各方面で評判を得ているし、黙っていても売れる本なので、こうではない選考を望みたいと思う。

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