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カモ類の雑種についての考察-餌付け問題に関して



最も餌付けを受けやすい、オナガガモ♂
(写真は本文と直接の関係はありません)


鳥類画家、氏原巨雄氏のブログにこんな記事があった。
http://redshank2.exblog.jp/10329768/

「過剰な餌付けによって、繁殖期まで居残るカモが増え、その結果として多くの雑種が生まれている」という説はここ数年でかなり広まってしまったが、本当にそうか?
私もこのことに関しては思うところがあるので、素人ながらちょっとまとめてみたいと思う。
問題点は3つ
(1)カモの雑種は、言われているほど多いのか?
(2)餌付けと雑種には本当に関連があるのか?
(3)餌付け自体に、それほど問題があるのか?

上のブログで紹介されている記事の出典はこれ
http://www.nationalgeographic.co.jp/animals/special_article.php?special_topic_id=1&episode_no=5
プロナチュラリスト、佐々木洋氏による記事の要旨
東京都心部には多くの野鳥が生息しているが、それらの中には雑種の鳥が見られる。
2007年4月には、ハクセキレイとセグロセキレイの交雑個体と思われる野鳥を確認している。
カモ類の交雑は、マガモとカルガモ、ヒドリガモとアメリカヒドリの組み合わせを筆頭に多くの例がある。過去に不忍池でトモエガモとオナガガモの交雑個体などを目撃している。
それら雑種の個体数は、年々増加しているが、発見数が多いワースト3は、不忍池、石神井公園、浮間公園で、いずれも野鳥に餌をやる人が多い。
交雑が起きる理由は、繁殖地が近いため、両種が非常に近い間柄であるため、という理由のほか、日本における人間からの過剰な餌づけが考えられる。
本来は種類ごとに固まって冬を越しているはずなのだが、人間による過剰な餌やりによって、さまざまな種類のカモが狭い範囲に集中してしまい、種間交雑のチャンスが増えていると考えられる。
この記事は、巷間流布されている説をほぼ踏襲したものだ。
この説が流布するに当たって大きな力になったのが、2007年から始まった東京都の「餌やり防止キャンペーン」であることは言うまでもない。
その少し前にこういう新聞記事が出ている。

2007年3月15日 読売新聞の記事より抜粋
「マルガモ」と呼ばれるカモが東京に出現している。頭はマガモのオス特有の鮮やかな濃い緑色、嘴の一部や羽の色はカルガモそっくりだ。マガモとカルガモという2種類のカモが交雑してできた個体、それがマルガモだ。
不忍池や清澄庭園では、約10種類のカモがひしめき合い、マルガモを始めとするさまざまな雑種が生まれている。カルガモとヒドリガモ、マガモとオナガガモなど、組み合わせも多彩だ。日本野鳥の会東京支部が昨年行った調査では、都内で少なくとも29羽の交雑種が確認されている。

その後、東京都のキャンペーンに沿った多くの類似記事やテレビ報道と内容はほぼ同じである。
「メタボガモ」といういかにもマスコミ好みの用語も生まれ、一種の都市伝説になった。
この伝説は伝播するごとに大げさになり、
「交雑が進んで、今や純粋なカルガモは存在しない」
という言説までもが現れた。


問題点1 カモの雑種は言われているほど多いのか?

マガモとカルガモ、ヒドリガモとアメリカヒドリの雑種に関してはよく観察されている。
ただし、前者についてはマガモではなく、アヒルかアイガモである可能性が高い。
後者については近縁種であり、繁殖域もある程度重なっていることから、交雑が多いことは実際に観察されている。
ただしアメリカヒドリは、東京都内の公園で餌付けに群がるほど個体数はいない.
トモエガモとオナガガモの雑種も事実確認されているが、この両種も繁殖域が重なっているので、ある程度交雑があることは理解できる。
だが、少なくとも関東地方においては、トモエガモの個体数は少なく、餌付けされている可能性も少ないので、この組み合わせを餌付けのせいとするのは筋違いだろう。

また、前段で「ハクセキレイとセグロセキレイの交雑個体」という、少なくとも餌付けには関係ないと思われる例が出てくる。
写真がないので、交雑と判断された理由がよくわからないが、4月と言えば幼羽が観察される時期であり、これらの幼羽は紛らわしい個体が多い。

また読売新聞の記事中、カルガモとヒドリガモという注目すべき組み合わせが出ているが、実際に存在するかどうか疑わしい。
事実だとしても相当珍しい個体だと思う。

実際には、カモ類の雑種というのはほとんど観察されていないのではないかと思う。
唯一例外的なのはいわゆる「マルガモ」である。
この雑種については私も以前記事にしたこともあるので、若干責任を感じるのだが、これらの雑種のほとんどはマガモが関係したものではなく、アヒルかアイガモだろうと思われる。
その理由として、マガモとカルガモは繁殖域が異なり、殊更この組み合わせが多い事情は見当たらないのに、アヒル・アイガモは、通常公園などでカルガモと一緒に見かけることが多く、繁殖期も渡りをしない種類であるから、国内で雑種を作っても不自然ではないからである。
「マルガモ」を見かけるのは、アヒル・アイガモが多い都市部の公園であり、山奥の湖沼などではほとんど見かけないことからもそう判断して良いと思われる。
先の新聞記事にある「東京都内で29種」という数も、ほとんどがこれ(と、少数のヒドリとアメヒの雑種)だとすれば、別段不思議な数字ではない。


問題点2 餌付けと雑種には、本当に因果関係があるのか

この問題を考えるに当たって、予備知識として最低限必要だと思うのだが、カモ類が皆餌付けされやすいわけではない。
一般に餌付けを受けやすいカモは
オナガガモ、ヒドリガモ、ハシビロガモ、ホシハジロ、キンクロハジロ
の5種類である。(他にハクチョウ類、オオバン、ユリカモメがある)
これに対し、
マガモ、カルガモ、コガモ、ヨシガモ、オカヨシガモ
などはほとんど餌付けされない。

餌付けが雑種の原因であるのならば、
■上記オナガガモ以下の5種同士が繁殖期まで居残り、国内で異種間の繁殖をした証拠。
■オナガガモ以下の5種と、通常国内で繁殖するカルガモとの交雑。
のいずれかが相当数観察されるはずである。

結論から言うと、そのような雑種はほとんどいないに等しい。
ネット上を検索しても、そのような写真はほとんど出てこない。
雑種が多い証拠として引き合いに出されるのは、やはりマガモとカルガモの雑種である。


また、佐々木氏の記事の中には「カモ類は、本来は種類ごとにかたまって冬を越しているはず」
という記述。
上記の新聞記事にも「約10種類のカモがひしめき合い、マルガモを始めとするさまざまな雑種が生まれている。」
との記述がある。

これは通常カモ類を観察している立場から見ると、ちょっと首を傾げたくなる記述である。
私が通常観察している、茨城県内各地を例にとると
■霞ヶ浦(土浦市)
マガモ、ヒドリガモが圧倒的に多い。
カルガモ、コガモ、オナガガモ、ハシビロガモ、ヨシガモ、オカヨシガモが見られ、ミコアイサ、ホシハジロは少数。
9~10種類程度

■乙戸沼
ヒドリガモが圧倒的に多い。
オナガガモ、ハシビロガモ、ヨシガモ、オカヨシガモが比較的多い。
カルガモ、コガモ、ミコアイサ、ホシハジロは少数
マガモ、トモエガモ、アメリカヒドリ、スズガモが稀
9~13種類程度

■宍塚大池
マガモ、コガモが圧倒的。
ハシビロガモ、ヒドリガモ、カルガモ
トモエガモなど、その他は稀
ここは比較的種類が少なく、5~6種類

■涸沼
スズガモ、ホシハジロ、キンクロハジロ、カルガモが多い。
マガモ、コガモ、ヒドリガモ、ミコアイサ
稀にホオジロガモなど
8~9種類

以上のように、大体10種類程度が混じっているのが普通である。
餌付けを行うと、先に挙げたオナガガモ等が支配的になり、他のカモ類は逆に少数になる。
こういうことは、バードウォッチャーならば普通に観察していることであり、餌付けが雑種を生む原因になっているという説は相当無理があるように思われる。


問題点3 餌付けは本当に問題なのか

ここでひとつ紹介したいのは、「東アジア・オーストラリア地域渡り性水鳥重要生息地ネットワーク(ガンカモ類)支援・鳥類学研究者グループ:JOGAの第10回集会「ガンカモ類外来種の現状と対策及び今後の課題」の中で発表された、「新潟県瓢湖におけるカモ類の雑種についての報告」
である。

要旨
新潟県瓢湖には、毎冬ハクチョウ類約3500羽、カモ類約15000羽が渡来しているが、その中に種間雑種が現れた。
オナガガモとトモエガモの雑種は少なくともこれまでに4例、2007年にはヨシガモとヒドリガモの雑種が渡来した。
アヒルとカルガモの雑種3羽も観察された。これは当初マガモ×カルガモと考えていたが、細部を検討した結果、アヒルとの交雑である可能性が高いと判断された。
水原町では管理事務所が与える以外は給餌を禁止していたが、1995年から観光協会が販売する餌を自由に与えて良いこととした。
このことによって、一般見学者にはこれまで以上に親しまれるようになった反面、持参したパンなどを与える人が後を絶たず、ニワトリ、アイガモやアヒル、ガチョウなどが捨てられたり放されたりして来た。
瓢湖で繁殖するカルガモは少ないが、雄だけのアヒルはアイガモやカルガモの雌を求めて雑種を作る可能性が高く、こうした状況の中でアヒル×カルガモが生まれたものと考えられるが、アヒルやアイガモを放置しておくことは人工的に雑種を作ることを助長するものと考えられる。
この報告によれば、15000羽ものカモ類が越冬する瓢湖において、雑種と思われるカモは過去に数例観察されているに過ぎない。(ここでは餌付けが行われているにもかかわらず)
しかも、餌付けと関連づけることが出来そうな雑種は、ここでも「マルガモ」だけであり、冷静な観察によってアヒルとの雑種である可能性が指摘されている。

私は餌付けについて、全面的に肯定しているわけではないが、都市公園などで限定的に行われている行為について、そんなに目くじら立てて禁止するほどのものではないと考えている。
餌付けをするのは日本人だけではなく、ヨーロッパでも冬季の餌やりは普通に行われている。
むしろ上の報告にもあるように、家禽類の管理不十分にこそ問題があるように思える。
私のフィールドでも、アヒルやニワトリを捨てる人が後を絶たず、可哀相だからと餌をやる人がいて、その結果どんどん増え、そうなるとさらに捨てる人が出てくるなど、悪循環に陥っている。
そのような状況の中でアヒルとカルガモの雑種が見られるようになり、餌付け批判の波に乗って、餌付け主犯説が出てきたものと思われるが、その根拠はいずれも薄弱で見当違いと言わざるを得ない。
野鳥への餌付けに関しては、本当に野鳥にとって害があるのか、科学的に検証する必要があると思われるが、最近では鳥インフルエンザ対策の一環として餌付け禁止の方向に走る傾向が出てきたようだ。
言うまでもなく、鳥インフルエンザは深刻な問題であり、軽々に論ずることは出来ないが、論拠は変わっても「餌付け禁止」という方向だけが一方的に敷かれている状況に、何か納得できない気がしてならないのである。
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